もう一度下を見て、ラドリーンはホッとため息をついた。

階段の先は小舟を寄せられるくらいの岸壁になっていて、猫はそこにいた。

鳴いている――最初はそう思った。

が、波音に混じって聞こえて来るのは楽の音だと気づいた。

すると、海がポオッと青白く光り、光の中から白馬が現れた。

ラドリーンは驚いて目を見張った。

馬は水の上を歩いている。

馬の背には人影が見て取れた。

やがて馬は岸壁に着き、乗り手がヒラリと降り立った。

フード付きのマントを羽織っているが、身のこなしを見たところ男だろう。

乗り手が振り返り軽く手を振ると、白馬は水で出来上がっていたかのようにザアッと音を立てて消え去った。


まずい。

かなりまずい。


あれは人間ではないだろう。

冬至祭(ユール)の時に来た吟遊詩人が歌っていた妖魔の類かもしれない。


ラドリーンは蝋燭を吹き消し、這うようにして通路に戻ろうとした。


が――


「待て、娘」