<侍女>だ。


上質だが陰気な灰色のドレスを着たこの中年の婦人を、ラドリーンは<侍女>と名付けていた。


何故なら名前を知らないから。


ラドリーンがこの城に来た最初から<侍女>はここにいた。

彼女は自分の名を名乗らず、ラドリーンを『姫様』としか呼ばなかった。

ラドリーンの身の回りの世話をするのが仕事らしく、起きてから寝るまで細々と仕えてくれた。


だが、それだけだった。


<侍女>はラドリーンに心を寄せる事も、一人ぼっちの境遇に同情する事さえしなかった。

ラドリーンも敢えて名を尋ねる事もせず、呼びかける時は『あなた』と呼んだ。


「外の空気に触れた方が気分がいいの」


ラドリーンは挑むように言ったが、<侍女>は無表情のままラドリーンの脇をすり抜け、小窓の木戸を閉めた。


いつもこうだ。

この女には感情というものがないのだろうか。


下働きの――ラドリーンが<影>と呼ぶ――老婆達も無表情だった。

こちらは<侍女>よりももっと酷く、喪服のような黒いお仕着せを着て、給仕の時も掃除の時も無言だった。