リナムがモゾモゾとラドリーンのお腹の辺りにもぐり込み、『準備できたよ』と、言った。

大旗が翻るような音をたてて、ドラゴンが翼を開いた。

「行くぞ、空へ。彼方、都まで」

アスタリスが歌うように言った。

翼が上下に動く。

土埃が舞い上がり、ラドリーンは体にぐっと重みを感じた。景色がゆらいでいると思った次の瞬間、ドラゴンは空へと飛び立った。

ドラゴンが羽ばたく度に、高さはぐんぐん増し、空が近づいて来るようだとラドリーンは思った。

強い風で息苦しくなる。

手を延ばせば、雲のように宙にぽっかりと浮かんだ黒い扉に手が届きそうだ。
すると次の瞬間、ドラゴンは急に降下した。奇妙な浮遊感に、ラドリーンは目眩を感じた。

「少し我慢しろ。すぐに風をとらえる」

アスタリスが耳元で言った。

ドラゴンは、もう一度大きく羽ばたいた後、薄膜の翼を大きく広げた。
黒い鱗に被われた背がぴんと伸び、飛行がみるみる滑らかになった。

速い。

船に乗った時も、その速さに驚いたが、それよりもはるかに速い。

港町の、石造りの城が遠のいて行く。

病人達が住んでいた家もまた。

程なく建物はなくなり、赤茶けた荒れ野が眼下に広がった。