翌日、旅立つ時に、少しもめた。

アスタリスは、ドラゴンに乗って空から行くと告げ、テオドロスが猛反発した。幻獣は異教の生き物だというのが主な理由らしい。

「未来の女王が異教徒だと民衆に思われるのはまずいのです」

「下らぬ」

アスタリスは鼻で笑った。

「分からぬか、司教? 今の民が求めるのは、安定した暮らしだ。信仰では腹はふくれぬ」

「ですが、人を人たらしめるのもまた、信仰です」

「それを否定する気はない。だがな、俺にはどうも、お前たち聖職者が神の名とラドリーンを使って、教会の都合のいいように物事を進めようとしているように思えてならない」

テオドロスは、グッと言葉に詰まった。

「とにかく、ラドリーンは俺がドラゴンで連れて行く。その方が速い。余計な危険にさらされる事もない――タレス公とやらの刺客とかな」

アスタリスはそう言いながら、黒い鱗のドラゴンを顎で示した。

「あれに乗るのが嫌なら、お前は地上から来るがいい」

テオドロスは、自分こそが王女の庇護者だと言い立てながらも、結局は折れてドラゴンの背に乗った。

驚いたことに、<侍女>までがラドリーンと共に行くと言い張り、こちらはマスタフと共に空を飛ぶことになった。