「恐らくは助からないだろうという者が、三人いる」

「その人達は……?」

「遅すぎた」

アスタリスは暗い顔で言った。

「ユニコーンの角の薬効は毒消しだ。どんな毒をも消す。外からの毒も、体が生み出す毒も。だが、それは傷や病気の治りを早めるのに過ぎない。本当に治癒するのは人の体が持つ再生の力なのだ」

アスタリスはつらそうに見えた。

だから、ラドリーンは思わず手を差しのべて、彼の頬を優しく撫でた。

「二人は、駄目だろう。もう体力が残っていない」

「もう一人の人は?」

「薬を口にする事を拒んだ」

「えっ?」

――どうして?

口に出さなかったラドリーンの問いかけが聞こえたかのように、アスタリスが頷く。

「構わないでくれと言われた。生きていたくないと。同じ病で妻も子も亡くしたそうだ――なぜだ? ラドリーン。生き物はすべからく生きたいと望むものなのに、人間だけがなぜ違う? 一方で不老不死を願い、他方で自ら死を望むとは」

ラドリーンは答を探した。けれど、隔絶された環境で育ったラドリーンに、人の心の機微など分かるはずもない。