それでも、ラドリーンはこの黒猫を相手に喋り続けた。


「イナンかしら? それともイニャーン?」


猫は不満げに頭を振った。

どうやら違うらしい。


絶妙なタイミングで鳴く猫に、ラドリーンはすっかり会話をしている気になっていた。


「怒らないでよ。猫語は分からないの」

笑いながら自室のドアを開ける。

「お入り」


猫はスルッと戸口をすり抜けると、真っすぐに暖炉の前に陣取った。


暖かそうだ。


ラドリーンは、暖炉の近くまで毛皮の敷物を持って来て座った。

猫がすかさず寄って来る。


「お前はいいわね、自由で」

気持ちよさそうに丸くなった猫を見て、ラドリーンは呟くように言った。


猫は、片目を開けてラドリーンを見た。


「そうね、お前も『自由』ってほどでもないか。結局はこの島から出られないんだから」


――ミャーオ