ラドリーンは、優しい竪琴の音色に包まれて目覚めた。

どこからか、微かな潮の匂いがする。

目をしばたき、手をついて上半身を起こした。
いつ髪をほどいたのだろう? 長い黒髪が肩から膝にかけて滝のように流れ落ちた。

ラドリーンは、どっしりとした藍色の帳(とばり)をそっと払った。

窓際の椅子に座り、アスタリスが竪琴を奏でていた。
足元の床にはリナムがだらんと寝そべって、しっぽでリズムをとっている。

「バード」

ラドリーンが小さく呼ぶと、彼は振り向いた。

「目覚めたか」

ラドリーンは小さく頷いた。

アスタリスは竪琴を片手に立ち上がった。ほどなく寝台の帳が払われ、真夏の空のような青い瞳がラドリーンを見下ろした。

ラドリーンは、呆けたようにアスタリスの目を見つめ返した。

何だろう?
視線に絡め取られたように目を反らす事ができない。

――えーと、ね

リナムが甲高い声で、アスタリスの背後から言った。

――オイラ、ちょっとマスタフのとこに行ってくる。ソーセージくれるって言ってたし