――野郎共の理屈はともかく

肩のサラマンダーがボソリと口を挟んだ。

――とっとと、この姫さんを休ませてやったらどうなんだい? さっきからグラグラ揺れてるぜ


どこからともなく、<侍女>が現れた。

「お疲れになって当然です。お部屋に戻ってお休みなさいませ」

相変わらずの無表情と、相変わらずの平坦な口調――ラドリーンは、思わず笑い出しそうになった。

目の前で戦闘が起きようと、巨大なドラゴンが空を飛ぼうと、<侍女>には関係ないらしい。

リナムが、前脚をグイッと伸ばして体を屈めた。大きな欠伸をひとつ。

――オイラも眠いや

呟くように言うと、<侍女>は苛立たしげなため息をついてリナムをつまみ上げた。

「さっ、行きますよ」

周囲の人々が道をあけるように、左右に分かれた。

――すげぇな

ラドリーンの肩で、サラマンダーが言った。

――古(いにしえ)の伝説に、英雄が海を割って渡ったっていう話があるが、そのオバチャンはそいつのおっかさんかい?

ラドリーンは、クスッと笑った。

<侍女>は振り返り、ラドリーンの肩の上をまじまじと見つめた。

「トカゲが喋った……?」

――なんだぁ、今気がついたの?

リナムが呑気に言う。

<侍女>は目を丸くして、顔の前にリナムを持ち上げた。

――オイラも話せるよ

「お黙り」

<侍女>がピシャリと言う。

「猫は喋ったりしてはいけません。絶対に」

――えーっ!

「ニャーとか、ミャーとか言いなさい!」

<侍女>はリナムを抱き直すと、ラドリーンの手を取り、決然とした足取りで歩き出したのだった。