ずっと自由になりたかった。
好きな所へ行って好きな事をしたいと願っていたはずだった。

けれど、わたしはどこへ行きたいのだろう?

何をしたいのだろう?

自分の中に核となるものが何もない事に、ラドリーンは初めて気づいた。
得たいものも、守りたいものもない。

「複雑な事は分からないわ」

ラドリーンはボソボソと言った。

「不安になられるのは分かります」

テオドロスはラドリーンの手を取った。

「ですが、わたしがこの身を削ってお支え致します。どうか女王となり、この国をお救い下さい」

(そして、聖騎士団を優遇するの?)

彼らは権力を持ち、財力を持ち、神と王の名の下に国を動かすだろう。
民が幸せになるのなら、それもいいのかもしれない。

けれど、もし騎士団が圧政を強いたら?

それを見ているしかないとしたら?

人々が『タレス公の方がよかった』と思ったら?

ラドリーンは、領民達に囲まれているアルフレッド卿を見た。

君主の理想像はある。

ただ、自分がそうなれるとは思えない。

「でも、誰もわたしを女王として認めないかもしれないわ」

ある日突然現れた小娘が『王女』だと名乗って、誰が信用するだろう。

「認めますとも。ハルド王家の方には徴(しるし)があるのです。王宮へ行けば分かります」