「農耕を教え、切れる斧を作り出す技を教えた。野山の毒も薬草も、だ。飢えぬように、凍えぬようにと思ったのだ」

絞り出すような言葉の度に、地に光を放つ線が走って行く。

「豊かさを独り占めさせたり、無益な殺戮をさせるためではない。断じてない! 愚かしくも正直な、愛すべき人間達はどこへ消えた?」

「そいつらは今でもあそこにいるよ」

マスタフははるか前方を指さして言った。

「そしてここにも、俺達の回りにもいる。昔も今も変わっちゃいない――なあ、バード。ここの人間は愚かで正直だから、欲望のままに動くんだ。豊かでいたい。若く美しいままでいたい、ってな。季節は変わるからこそ美しいのに、そこには思いが至らない」

「俺は彼らに干渉すべきではなかった」

「そうだったとしても、お前に他の選択肢はなかったんじゃないのか? バードだからな」

仕方がないとでも言うようなマスタフの言葉に、ラドリーンは首を傾げた。

『バードだから』とは何だろう?

今まで、バードとは魔法の歌を歌う吟遊詩人のようなもの、と漠然と思っていたが。


――ねえ、バード

リナムが口を挟んだ。

――地脈の光が消えないよ


「それはしばらく消えぬ」

アスタリスが答えた。

「夜明けとともに、人々は『扉』を見るだろう。地は揺れ、正しき者が高みに登り、悪しき者が地を這う。7日の後、幻獣は全て去り、『扉』は閉ざされ、再び世界の均衡が保たれるだろう」