――あっちでも歌ってるよ

リナムが無邪気に言った。

――おんなじ歌だね


その場にいた全員が耳をすませた。


傾いた舟のような月の下、潮の香を含んだ夜風が運んで来たものは――


「門を開けよ」

アルフレッド卿が唸るように言った。

「し、しかし」

慌てる門番に、アルフレッド卿は口調を和らげた。

「構わぬ。どうせ半分は壊れているのだから」


門番は唇を引き結ぶと、鉄の鋲を無数に打ち付けた重たげな木の扉を外に向かって押し開いた。

アルフレッド卿は一人、門の外へと足を踏み出した。

腕を組み、遠くを見るようにその場に立ちつくす。

「誰ぞ馬を持て」

「いけません!」

領主夫人は叫ぶように言って夫の腕にすがりついた。

「行かないで。あの者達だとは限らないではありませんか」

「ローナ、船歌を知っているのだ。ここの民に決まっているだろう」

「でも! 死の門前にいる者達です。放って置いてもじきに死んでしまうのですよ」