「いや……わたしが狭量だった。許せ」

テオドロスの言葉にマスタフが頷く。

「で、俺の頼みは調べてくれたのか?」

アスタリスが口を挟んだ。

「ああ。それなんだが――」

その時、マスタフの言葉を遮るように鐘が鳴り響いた。
音は幾重にも重なり合い、危急を知らせた。

「来たな」

アルフレッド卿が呟く。

一度落ち着いた城内が、再び蜂の巣をつついたような喧騒に巻き込まれた。


『夜襲でございます!』

『街の外に松明を灯した軍勢が!』

『巻き上げ機が壊されて跳ね橋が上がりません!』


「行くぞ、領主。俺達は街の門で敵を待つ」

アスタリスはそう言いながら、灰色のマントを脱いでラドリーンに着せ掛けた。

「承知」

アルフレッド卿は力強く頷くと、慌てふためいている家臣達に向かって大きな声で呼び掛けた。

「皆の者、落ち着け! 配置に着きなさい。各々がなすべき事をするのだ。そして、いざという時には逃げよ。必ず生き延びるのだぞ」

ラドリーンはアルフレッド卿の巨体を見上げながら、どこか懐かしさを感じた。

頼もしく、情け深く、勇敢――もしも父が生きていたら、このような人だっただろうか。

「動ける騎士はついて参れ。敵を迎え討つぞ」