「聖騎士の格好で乗り込んで来たが、偽物らしい」

マスタフは、床に横たわる怪我人を顎で指し示した。男は止血のための布を脚に巻かれていたが、よく見ると、同時に両手も布で拘束されていた。

「こいつの話によると、本物の聖騎士はどこかで捕まったようだ」

「黒幕は誰だ?」

アスタリスの後ろに立つテオドロスが口を挟んだ。その身はまだふらつくらしく、義兄に支えられている。

「タレス公に決まってるじゃありませんか。あなたは、はめられたんですよ。騎士団長殿」

「ではエイローンは――」

「十中八九ピンピンしてるはずです。奴さんは、あなたが王女を隠しているのは知っていた。ただ場所が分からない。我々、聖騎士でさえどれが本物か分からなかった」

テオドロスは頷いた。

「ああ。何ヵ所かに偽物の王女を配していたからね」

「だからタレス公は一芝居うった。自分が死にかけていると吹聴すれば、あなたは本物の王女を担ぎ出すだろうと踏んだのでしょう」

「期せずして奴の思い通りになった訳か……で、君はどうなんだ? 聖騎士マスタフ。裏切り者の異教徒なのか?」

「心外ですね。確かに俺の出身は『霧の森』の向こうで、あなたが異教徒と呼ぶ者達の中で育った。この男とも――」

マスタフはアスタリスに目をやった。

「昔馴染みだから、頼み事を聞くこともある。だが改宗もしてるし、正規の手続きで入団した正真正銘の聖騎士です。仲間を裏切った事は一度もない。それでもご不満ですか?」