階下は酷い有り様だった。


扉や家具の残骸が散らばり、壁と床には至るところに血飛沫の跡があった。

戦いの最中にぶちまけたのだろう。アルコールの臭いが鼻をついた。それに混じって血の臭いも。

男達は死体を隅に寄せ、怪我人の手当てを始めていた。


「血を踏むな。滑るぞ」

アスタリスはそう言ってラドリーンの肘に手をやった。

下を見ると、足元にどす黒い血だまりがある。何かぐちゃぐちゃしたモノが混じっていたが、確かめる間もなく、ラドリーンはアスタリスの脇に引き寄せられた。


「マスタフ」

アスタリスが声をかけると、怪我人の傷を確かめていた騎士が振り向いた。

「バード? いつ来たんだ?」

「お前が二人蹴倒して、三人目を斬ったあたりかな」

「結構前だな」

「二階から落ちて来たリナムを受け止めるのに忙しかったんでね」

――バードが手を出さなくても、オイラ、自分でちゃんと着地できたんだよ

リナムが不満そうに言ったが、二人は気にも留めない。

「裏切りか?」

アスタリスの言葉に、マスタフは首を横に振った。