「いいえ! いいえ! よかった。テオもあなたも、わたしのせいで死んでしまったのだと――また、わたしのせいで」

領主夫人は顔を覆って泣き崩れた。

「ローナ、お前はいつも突拍子もない事をしでかすが、どれもこれも子供の悪戯程度だよ。お前の両親は戦に巻き込まれただけだ。亡くなったのはお前のせいじゃない。たとえお前が何もしなくても戦は起きただろう」

「わたしが何をしたか、知ってらしたの?」

「察しはつく」

「でも、今日だって……」

「敵もワインを飲んだ。おあいこだ」

アルフレッド卿はがっしりとした腕で妻を抱きしめ、アスタリスを見上げた。

「神王陛下、おこがましい事は承知しています。ですが、どうか妻と義弟をお救い下さい。二人を安全な場所まで――」

「お前はどうするつもりだ?」

「わたしは城主です。最後までここを守ります」

「階下はそろそろ落ち着くようだぞ」

「外に軍勢がおるはずです。彼奴らは味方と掏り替わって現れ、喧嘩を装って街の門を壊しました。長くは持ちますまい」

アルフレッド卿の表情はどこか吹っ切れたように清々しかった。

「我が一族は、この国の王家と同時期に改宗致しました。異教徒への弾圧が強くなったせいと聞いております。ただし――ただし領主となる者だけに、代々、魔法の神の名とこの国を治めた神王陛下の名を伝えてきたのです。『危機の時は神王の名を呼び祈れ』と」

「だが、誰も我が名を呼ばなかった」

「伝説だと思うておりました」