「悪魔の猫とはこれの事か?」

頭上から冷ややかな声がして、黒い塊がドサッと降ってきた。

「うわっ!」

ラドリーンを締め上げていた腕が緩んだ。

急に肺に空気が入ってきて、ラドリーンは咳込んだ。

「助けてくれ、嫌だ! 死にたくない。助けてくれっ!」

誰かが、暴れる騎士から引き離すようにラドリーンを抱き寄せ、背中をさすってくれた。

その手の感触を知っていた。

夏を思わせる、その匂いも。


「アスタリス……」

「まだ喋るな」

深くかぶった灰色のフードの陰で、アスタリスは顔をしかめた。

「瀕死の男に助けを求められたら、とどめをさしてやれ。それが親切というものだ」

――ねえ、この人 動かないよ

リナムの甲高い声がした。

目をやると、リナムが胸の上に乗って、不思議そうに聖騎士の顔を覗き込んでいた。

「急所を刺されているのに暴れたからな。逝ってしまったのだろう」

――まだ生き返らないんだね

「リナム」

アスタリスは苦笑いを浮かべて言った。

「そいつは生き返らない。命が九つあるお前達とは違うのだ」