何だろう? 何の音だろう?

領主夫人とラドリーンは顔を見合せた。


――きな臭い

リナムが小さく言った。


「ああ、まさか!」

領主夫人は、はっとしたように身を翻して扉を開けた。


――逃げなきゃ、ラドリーン。きっと火事だよ


火事?

ラドリーンも急いで廊下に出た。

リナムの言う通り、何かが焼けるような臭いがする。だが、ここの城内には詳しくない。どちらへ逃げればいいのだろう?


――右へ、ラドリーン。あの女の人の声がする


ドレスの裾が足に絡まり、ラドリーンは転びかけた。

リナムがすかさず床に飛び下りる。


――ラドリーン、こっち!


ラドリーンは両手で裾を持ち上げてリナムの後を追った。

横目で扉を5枚ほど越えたあたりで、階段の踊り場に出た。

下の方が騒がしい。

きな臭さは相変わらずだったが、煙が立ち込めてきているようでもなかった。

こちら側は火元とは遠いのかもしれない。

リナムは振り返って、ラドリーンがついて来ているのを確めると、階段を下りていった。