――あー、やっと喋れる!

ラドリーンにあてがわれた部屋で、誰もいなくなった途端、リナムはやや甲高い声を上げた。

――で、結局さ、出発は明日なの? 明後日なの?


「明後日になった、みたいよ――食べる?」


ラドリーンは、食卓からこっそり持ち帰ったナプキンを広げた。
中には鰊の薫製が入っていた。

リナムは『フギャッ』と、いかにも猫らしい歓声を上げて鰊にかじりついた。

夕食の時、リナムはテーブルの下でミルクを飲んでいたのだが、二転三転する話についていけなかったらしい。

当初、この港町で合流するはずだった聖騎士の一団が到着していないとかで、テオドロスは彼等を待って出発日を一日延期すると言っていた。

ところが、夕食を終える頃、その騎士達が町の門に着いて騒動になっているとの知らせが入った。

日が暮れてから門は開けないと門番が拒否し、一方の騎士達は神に仕える騎士団に対して無礼だと怒って門を打ち壊そうとしたのだった。

食事の途中でアルフレッド卿とテオドロスが門に向かい、仲裁に入った。

両者の言い分を聞いた上で、アルフレッド卿は騎士達を招き入れ、壊した門については騎士団が弁償する事に決めた。

やっと騒動が収まったのは夜も遅くなってからで、都への出発は明後日にしようということになったのだ。


――これから先、今日みたいに全然喋れないのかなぁ