「まるで終わりのない悪夢のようだ。疫病の収束は、あそこにいる者が全て死に絶えた時。人の死を悼みながら、人の死を望んでいる――おのれの罪深さに吐き気がする」

アルフレッド卿の声は悲しげだった。

「テオが貴女を玉座に据えようとしている国は、このような有様だ。それでも都へ上られるおつもりか?」


ラドリーンはリナムをギュッと抱きしめた。

「わたしは何かを決められるような立場ではないのです」

それが真実だ。


「どこかで心静かにお過ごしになりたいとは思われぬのか?」


今までのように?


「姫様につまらぬ事を吹き込まないで下さいませ」

<侍女>が口を挟んだ。

「司教様の後ろ盾があるのです。何も心配される事はございません」


「テオが優秀なのは分かっておる。だがこの現状は――」

アルフレッド卿は曖昧に回りを指し示すように手を振った。

「この現状は人間の手にあまる。この国は少しずつ滅んで行くのだ。奇跡でも起きない限りは」



宵闇が少しずつ深くなり、『死者の家』は見えなくなっていった。

ただ、二つ三つ明かりが灯り続けている。