「いや、姫君のせいではござらん。あれの実家は王家にも繋がる名家で、親はひと時ローナを王妃にしようと画策していたようだった。ローナもそのつもりだったのだろう。せめて、もっと血筋も見目も好い男に嫁げばああはならなかったのかもしれん」

アルフレッド卿が自嘲気味に笑う。


(この人は妻を愛しているのだ)

ラドリーンは不思議なものを見るようにアルフレッド卿を見た。

愛を返してくれない人をどうして愛せるのだろう?


すると、アルフレッド卿はラドリーンの思いを悟ったように静かに微笑んだ。


「人の心というのはままならぬもの」


「誰が知るだろう 愛の安らう枝を」

ラドリーンは思わずアスタリスの歌の言葉を口にした。


「その通り。姫君は詩人でいらっしゃる」


間違っている――と、ラドリーンは思った。

愛する者が愛され、努力した者が報われ、心正しき者が勝つのではないのか。

それが神の説く、正しい世界ではなかったのか。


「御家中の揉め事のお話はそのくらいで」

<侍女>が冷たく口を挟んだ。

「姫君は慣れぬ船旅でお疲れです」


「これは失礼した」

アルフレッド卿は決まり悪げに頭を掻いた。