「姉上」

見兼ねたように、テオドロスが姉の両手を取って自分の胸元に押し付けた。

「どうか落ち着いて。お加減が悪いのですね?」


奥方はテオドロスの顔を見上げた。


「薬草入りのワインでもお飲みになっては?」


「そうね。飲みたいわ」

どこか虚ろな声。


「わたしがお部屋までお連れしますよ」

「ええ、お願い」


テオドロスは、急におとなしくなった姉の背中を支えるように腕を回した。


「義兄上、申し訳ありませんが……」

「おう、後は任せとけ。こちらこそすまんな。ローナを頼む」

「お任せ下さい」


ふらつくように歩く奥方の後ろ姿を見送りながら、<侍女>は顔をしかめた。

「ご無礼にもほどがあります」

咎めるようにアルフレッド卿に文句を言う。


「申し訳ない。言い訳になるが、あれは少し心を病んでいるのだ。十年前の戦で、テオ以外の親族全てを失ってな。近頃は少し落ち着いたと思っていたのだが――」

アルフレッド卿はラドリーンを見て、首を横に振った。