羊皮紙と香木の匂いがする。

ラドリーンは書棚の前に立った。

図鑑、地図、数字や記号を羅列した建築の本、誰かの旅の記録、それから聖なる書。

読んでしまった本がほとんどだ。


――ミャア


猫が書棚の下の方をガリガリと引っかいた。


「ネズミなら、わたしはいらないわよ」


――ミャア、ミャア、ンミャアッ!


ラドリーンは上を見上げてため息をついた。


「何があるの?」


手にしていた蝋燭を書棚に置き、しゃがみ込んで猫の前足の先を見る。


何だろう?


書棚の下の方に、取っ手のような物があった。

ラドリーンは、黒い鉄の輪を引っ張ったり押したりしてみた。

すると、掛け金が外れる時のような小さな音がして、書棚がスルスルと横に動いた。

書棚のあった場所を覗き込むと、その向こうは小さな部屋になっていた。

猫がさっさと中に入って行く。

少し迷ってから、ラドリーンも部屋の中に足を踏み入れた。