海の声が聞こえる――


ラドリーンにとって、それは子守歌であり、過去からの呼び声でもあった。


(あれは誰の声?)


ラドリーンは、窓の向こうに広がる海を見ながら、よくそう考えた。


ラドリーンが住むのは、波の荒い海の上にポツンと浮かぶ孤島だ。

島の上には石作りの、陰欝な雰囲気の城が建っている。

そこはかつて、海の彼方から現れる海賊達から王都を守るために建てられた城塞だった。


ラドリーンの部屋の窓は、海に面していた。


壁の中央には大きな玻璃の一枚板が嵌め込まれた窓があったが、その外側には鉄の格子がついている。

他にも二つ、鉄の鋲を打ち付けた木戸のついた小窓があったが、こちらは小さすぎて肩まで外に出すのがやっとだ。

それでもラドリーンは毎日この小窓を開けた。


そうでもしないと、息が詰まりそうだ。


外敵を阻むための城は、同時に、そこの住人を外の世界から切り離してしまっていた。


「姫様、窓をお閉め下さい。潮風は体に悪うございます」

陰欝な城よりさらに陰欝な声がした。