「あの、優等生の一ノ瀬君がサボり?先生からものすごく信頼されている一ノ瀬君がサボり!?」

そんなことを思いながらタンクの影から見ていると、彼は先ほど自分がしていた格好を真似るかのように寝転んだ。

何か、話かけづらいけど、みんなのアイドル一ノ瀬奏夜と話せるチャンスなんてない!
相手にされないのを覚悟で話かけてみよう!

「へー、優等生の一ノ瀬君でもサボることなんてあるんだ。」

上から覗き込むようにして話し掛ける。

「誰?」

「あたしの名前は彩原鈴芽」

喋りながら横に体育座りをする。

「雀?鳥?」

「違うよ!リンリンなる鈴に植物の芽で鈴芽」

「ふーん、何で俺のこと知ってるの?」

「学園にいたら一ノ瀬君のことくらい知ってるよ!有名人だもん!」

「まあいいや。」

そういうと彼は寝返りをうった。

「ねえ、一ノ瀬君」

「何?」

「あたしとさ、友達にならない?」

「は?何で俺があんたと友達にならなきゃいけないわけ?」

「サボり仲間として!」

「断る。俺、普段はサボんねーし」

「でも今日はサボってるじゃん。」

「たまたまだろ。」

「てかさ、一ノ瀬君て何かイメージ違うかも。」

「急になんだよ…」

「もっと喋らないイメージっていうか、クールっていうか…
今話してる雰囲気は何か違う。口悪いし、なんか俺様だし。」

「悪いのかよ。」

「全然!むしろ話しやすくて楽しいよ!」

屈託ない笑顔で笑う鈴芽が奏夜には輝いて見えた。

「…まあ、お前が言ったイメージ、間違っちゃいねーよ?普段はこんな話し方しないし、つか人と話さないしな。」

体を起こして奏夜が言った。

「そうなんだー。親しい人と話すときだけ?」

「いや、家は特殊だから、こんな喋り方はご法度だ。それに、友達っていう友達もいないしな。
って何語ってるんだ、俺。」

奏夜は少し寂しげな表情をしている。

「一ノ瀬君、友達いないんだ。」

「なんだよ、寂しいやつとかでも思ったのか?」

「じゃあさ、あたしが友達1号だね!」

立ち上がった鈴芽が、嬉しそうに言った。

「は!?何言ってんだよ、俺はお前と友達になる気はない!」

勢いよく立ち上がった奏夜がそう言い返した。
鈴芽は人差し指を空に向けながら、

「素を出せる友人が一人はいた方がいいでしょ?」

「いや、それは、確かに、そうだけど…」

口ごもる奏夜に勝ち誇ったかのように鈴芽はこう言った。

「でしょ!じゃあ決定!」

「勝手に決めるなよ!」

そんなことを言い争っていると、

ガチャ

「ごらぁ!お前ら何しとんじゃー!」

授業終了10分前のことだった。