「ふあ~、よく寝た…」
こうが目覚めると周りは朝日に包まれ清々しい静けさで満ちていた。


「…朝か…」
長い、長い昨日の出来事を思い返しているとすぐにけたたましい音に現実を思い知らされる。


「大変大変よ!!こう! 」

寝起きにジュンが大声で走ってきて、起きぬけのこうの耳が悲鳴をあげる


「~~ 待て待て 寝起きに大声はキツい! 」

「それどころじゃないわよ! ヒナが、ヒナがいな いのよ!! 」

「…なんだよ…トイレかなんかだろ?」
「違うわよ!天の塔にひとりで向かう子を見たって!茶髪の大きな本を抱えた子って…!
それって!」

「なに~!! 」

慌てたように話すジュンにただただ驚くこうであった。





その頃、ヒナは大変な状況に出くわしていた…

「なに…?あのうす気味悪い物体……でも、女の子が !」

髪には神秘的な髪飾り、水色の長いローブをまとい神聖な雰囲気を漂わせる司祭らしき女の子が、頭まですっぽりと 黒いローブで覆った仮面の男に何やら言い寄られているのだ。

「知りませんここには誰も…」

「ヨコセ。ホウジュヲ、ヨコセ。ホウジュツカイヲダセ。 ダサナケレバ、コロスゾ。」

「そんなっ!」
脅すような言葉と勢いに女の子は青ざめ、座り込んでしまった。

「あいつ…宝珠を狙ってるのね…あの子怖がってるじゃない!!」

「そんなに欲しければ、見せてやるわよ! 」

会話を聞き、いても、たってもいられなくなったヒナは2人のもとへ飛び出した


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「って…出てきたものの…どうしよう! 」

おせっかいとも言える勢いから仮面の怪しいローブ男の前に走り込んだヒナはどうしたものかと慌てふためいていた

「ナンダオマエ」

「やば!!こっち睨んでるし!」

今まで感じたことのない、鋭い眼光とその手に持つ鎌や、見えない視線から感じる殺意に表情を変えるヒナ。

「オマエハ、ホウジュツカイカ?」

男は何かに驚いたのか一瞬動きを止める。

座り込んでいた女の子は隙をついて、ヒナにすがるように叫んだ。

「あれは闇の集団の闇駒と呼ばれる式紙のようなものです!
魔法をかければ、すぐに消えるのですがっ 」

「えっ!ごめん!!私、魔法使えないや…けど… !」

~さっき手に入れた宝珠の力をどうにかできないかな…?~

目の前の男を睨みながら考えていたヒナの服から何かが飛び出した

「ウキ~! 」

「え?モンタ 」

ずっとヒナの服の中に隠れていたモンタがさ っきの本をの上に降り立ち、ヒナのを見つめている。

「??」
訳もわからないまま本を受け取ると不思議と言葉が口をつき、放たれる。

直感に頼り、その言葉に意識をゆだねた。

『時の宝珠リイムよ、
時と秩序、空を守りし、 守人よ…
その禍々しき異空の波を起こし、悪しき者に永遠の楔を…』

本は自然とページをめくられ、眩い光を放つ。

宝珠の光は意志を持つように男に向かい、包み 、一瞬で跡形無く弾けた…

瞬間……… ヒナの意識は途切れた。


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……………

暗く、深い。 その中でも、黒く光る水晶の間。

音もない、静寂な空間に一人の男がいた。

その空間の天井には無数の星が映し出されてい る。

ほとんどは白く、その暗闇に溶けるように細い 光を放つ。

その中で一つの星座が、急に紅く燃え出す。

「………… 」

男は閉じていた瞳をあける。 深い、紫の色。

男はまだ、あどけなさを残す、青年だった。 しかし、その目は鋭く、相当な魔の使い手なの だろう。 身の回りを黒い稲光に似た光で包んでいる。

「………来ましたね。」

パタン。

「サマル 」

暗闇が瞬時に消え、青く揺らめく灯りとともに 、もう一人の男が入ってくる。

その青年は男にサマルと呼ばれ、振り向く。

「なんですか?セレメス。」

今入ってきた男、セレメスは、幾重にも重なった長いローブをまとい、長い身長程の杖を持っている。

「宝珠使いが現れたそうだ、天の塔に寄越した闇駒がそう残し、消えた。」

「…………宝珠使い……他に仲間はいたんですか ?」

「いや、それ以上の情報は……」

「セレメス、挨拶を。」

そう言うと、サマルはにこりと笑い、後ろを向 く。

「……早いな。今回は。」

セレメスも察したのか、すぐに部屋を出る。

紅い星を見上げ、サマルは誰に言うでもなく、 呟く。

「………星はだいぶ怒っているようですよ…星は 目覚め、星の復讐が始まりを告げる。 どうします?カストル…。」


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「消えた…闇の集団が…一瞬で。 それに、今のは…ただの魔法じゃない?…」

ヒナが倒れた後に残ったのは、襲われていた女の子だけだった。

先程の闇駒は跡形もなく消えている。

辺りはいつもの朝の情景を取り戻していた。
女の子は、気を取り直し倒れたヒナを起こそうと近づいた。

「待て。」
「!! 」


背後に気配を感じて振り向くと
黒い靄が現れ、長い杖を持ちローブをまとった男が現れる。
セレメスである。

「また…闇の…」

女の子は思わず後ずさる。

「物分かりが良い娘だな。いかにも、私は闇の集団『4DS』のセレメスだ。」

「なっ… 4DSて……最高幹部、四天王の!」

女の子はその場に座り込む。その顔からは血の 気が引いている。

「…悪いが、その宝珠使いを渡してもらおうか。 邪魔をすれば命はない」

「!!」

セレメスは一歩、一歩ヒナに近付いていく。

為すすべもなく、座り込む女の子の横を通り過ぎ、ヒナに手をかけようとしたその瞬間、

「!? 」

セレメスは何かに気づきバッっと退く。 その手には、微かな切り傷がにじむ。

「4DSも目が鈍ったんじゃない 」

凛とした声がどこからか響く。

「……誰だ。」
怒りを押さえ、その声に鋭く応じる

「宝珠使いは…その子かしら。」

そこには、ひとりの女が立っていた。

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「何?おまえが宝珠使いとでも…」

凛とした振る舞い、臆せぬ瞳、相当な力を感じたセレメスはその女に向きなおる。

「なる程…名乗り出たこと、後悔するがいい。」
「それはどうかしら。」

女ははすぐに言葉を返し、武器と思われる華麗な扇子を両手に持ち構えをとる。

「ふん…。」
セレメスが杖を手に詠唱を始めた瞬間、

「今よ !」

女が誰かに向けて強く叫ぶ。

瞬間、セレメスのすぐ横を飛ぶように走る男が 見えた。

こうだった。
ジュンの言葉を聞き、すぐに天の塔に駆けつけたこうは倒れたヒナをどう助けようかと伺っていたようだ

「サンキュ(誰だか知らねーけど)」

こうは素早くヒナを抱えると塔の中へ転がり入った。

「………誰だか知らんが、気分が悪いな。 さて、おとり…のつもりでは無いのだろう?」

「さて。どうかしらね」

2人は向き合い、緊迫した空気が流れる。

一方、どさくさにまぎれ、ジュンも、先ほどの女の子を救出することができていた。

「ふぅ~良かった、怖かった! 」

「あの…ありがとうございます 」

「いいのよ。あなたはこの塔の守人の一人ね」

「はい」

「そう。悪いけど、塔、勝手に入らせてもらうわね?」

「…。」
女の子は静かに目を閉じ、言葉をつなげる。

「この天の塔が望むのならば…。 あなた達を信じます。 きっと、宝珠の加護があることでしょう。 どうか、ご無事で。」

そう言い、もう一度深く頭を下げるとまた、塔の麓の建物に向かっていっ た。