「なんだ!?」

パン!パン! とたんに空に花火のような火花が飛び散る。 それを合図にしてか広場にいた人の波は一斉に 中心部目指して散る。

「ブルームの合図!! 『闇の集団』!!急いで! あの塔まで走るわよ!!」

「ええ〜」 「なんだかわかんねーけど行くぞ!」

『闇の集団』……ジュンが呟いた言葉が何なの かわからないまま、その緊縛した雰囲気と剣幕 に押され、言われるがまま走るヒナとこう。 街には小さく火の手があがっている。

しばらく火花は散っていたが、その合図が消え ると同時に街一体が黒い炎と影で覆われていく 。そして、それが一目でなにかの攻撃だとわか った。

街の人たちも、それを避けるように安全な場所 目指して走っているようだ。

「なんなんだよ!あれは…」 「話は後!シエル!」

ジュンは短く詠唱をすると、手のひらから杖を 引き出し、高く掲げた。 杖から淡い光が現れ、3人を包む。

「わあ!すごい!ジュン!」 「感心してる場合か!!」

ドガン!!

側の街灯に雷のような光が落ち、石造りの路地 をえぐる

「きゃー!」 「真面目に走るぞ!まじでやばい!」

なんとか、火や、雷の攻撃を避けて塔の近くの 砦に到着できた三人だったが、急に起こった出 来事にその場にへたり込むヒナとこうだった。

周囲を見回し、安全を確認したジュンは静かに 杖を降ろす。 「……これが、今のこの世界の均衡が崩れている 元凶…『闇の集団』よ。」 [newpage]

「なに?闇の集団って…」

「北の時空間の歪みを利用して空に要塞を築き、 闇魔法を使う種族よ。 最近になってこうしてこの世界に活発に攻撃し てきているのよ。 今の攻撃はそいつらの仕業… 古の昔、光暗戦争で敗北した種族とは言われて いるけど… 本当に復讐が目的なのか、破壊か、侵略なのか …」

ジュンの説明をだまって聞いていたこうが口を 挟む。

「この世界のヤツらはなんとかしないのか? 逃げるだけかよ?」

「………奴等の攻撃の闇魔法は威力がものすごく て…私たちでは太刀打ちできないのよ… こうして砦を築いて身を守るので精一杯。 それでも何度となく強い魔法使い達が北まで向 かったけど……」

ジュンは切なげに首をふる。

「あいつらのおかげで、地は枯れ、空は黒ずみ、 街は荒らされ……何人も犠牲がでてる…。 特にここ何日かは攻撃が頻繁になってきたわね …」

悲しそうに俯くジュンの横でヒナは思いついた ように言葉をもらす。

「…あ……光の神…?」

「え?」

「そうだ!光の神が現れればいいんじゃん?」

ヒナが立ち上がりながらジュンに問いかける。

「なんだよ、急に…」

「そうね…そうよ!世界の均衡が崩れし時、宝珠 使いが現れ…… つまり宝珠を12個集めて光の神が現れれば、闇 の集団は退くってことかしら」

ジュンは一筋の光を見出した気分なのか、黒ず んだ空を見上げる

しかし、こうは複雑な顔をして、ヒナに呟く。

「おい、ヒナ……」

「わかってる。私たちの目的は帰ること。 それは変わらない。 でも、気になってきたの、宝珠やこの世界が…」

ヒナは不思議な気持ちだった… 自分を必要としている現実がこの世界にはたく さん揃っている。 幼いあの頃夢みた絵本のように。

元の日常に帰りたいと強く願う気持ちとは裏腹 にヒナの心は揺れている………

その時、ポンと手を叩き、何かを思い出したジ ュンが叫ぶ

「そうそう。宝珠の伝説があるのはこの塔、『天 の塔』だったわ!」

「天の…塔」

ヒナは砦の入り口からも見える『天の塔』と呼 ばれる大きな塔を見上げた。

[newpage] 「天の塔って…あれが…」

ヒナとこうは砦の外に出て、そのすぐ前にそび え立つ高い、高い塔を見上げた。

そのてっぺんは見ることができず、雲の上まで 続いている。 塔の側面は神秘的な装飾、階段、高い柱が何本 も立っている。 まるで中世のヨーロッパにある遺跡のような様 式だ。 塔の中は決して広くはないようだが、天の塔の 名の通り、とにかく空高くまで続いている

「確かに…なんかいそうだよな…」

「まあ、今日はもう夕暮れになるし、夜を越して 、朝また来ましょ」

気づけば長い一日が終わろうとしていた。 一行は塔の近くでジュンの作る結界の中で夜を 越すことにした。

夢…

ヒナは夢を見ていた。 濃い霧の中、手を伸ばすとそこには、ひとりの 少女がいる。

『誰?』

その子は、ヒナの目の前に現れる。

『!!』

目、顔、背、雰囲気…すべてが自分と同じ…

『だ…れ?』

その少女がゆっくりと手を上げると、その手に は大きな鎌が現れる…

『…え』

瞬間、少女はヒナを捕らえ、その首に鎌が…… …

「!!!」

バサッ!

目が覚めると、そこにはジュンの姿があった。 「起きた?おはよ。」

いつの間にかジュンの後ろには朝日が上ってい る。 ジュンは髪を結わき、朝の身支度を整えていた ようだ。

「…誰……」

一瞬間が空いて放ったヒナの言葉に動きを止め るジュン。

「あっ、え?昨日の今日で忘れちゃったの?」

「……あ、ジュン……。こうは?」

「?? こうは向こうでまだ寝てるみたい。朝ご飯作る わね。」

ヒナの様子に安心したように言うと、魔法使い らしく、何やら食材を出し、ヘンテコな道具と にらめっこを始めた。

「……夢?……なんだったの……。ん?あれは… 」

ふいに天の塔を見ると不思議な黒い影が見え隠 れしている。 「……?」

ヒナは不安な気持ちを振り切るように走り出し た。