「圭、手紙読んだってよ」
隣でコーヒーを飲むヒナに言った。
動揺したのか、カチャっという音がした。
「もしかして今日中村くんと会ってたの?」
「ああ、呼び出されて」
「そうなの、ごめんね、あたしも呼び出しちゃって」
「二人揃って、俺のこと好きだよな」
ヒナは小さく笑った。
笑顔は昔から変わらない。
目が細くなって、えくぼができる。
「そっか、中村くん読んでくれたんだ」
「まあ、どうするかまでは知らないけど」
「ううん、ありがとうオカ」
言うなら、今しかないんだろうな。
きっと、今言わなかったらヒナとはずっと、
友達のままなんだろうな。
そんなことを考えながら、カップを傾けた。
「オカって、実はコーヒー飲めないよね」
そういいながら笑った。
実は、今飲んでるのは紅茶だったりする。
「悪かったな、お子様で」
「クールな外見なのに意外と可愛いところあるよね」
ほら、言うなら今だろ。
そんなことをまた考えながらカップを傾ける。
「それで、今日はどうした?」
「うん、あの…」
「うん」
「今勤めてる病院辞めるの。それで、地方の病院に勤めようと思うんだ」
「…うん」
「…もしかしてオカ、気づいてた?」
「まあ、今更圭に手紙書くんだから、なんかあるんじゃないかな、とは思ってた」
「さすがオカだな、昔と変わらない。
それで、オカにお礼を言いたくて」
「あのさ」
「…うん?」
そうだ、ヒナは勘がいい。
そんなの、俺が一番知ってたよ。
きっと、今まで全部、ヒナの気遣いだったんだ。
ヒナが俺に圭の話をするのも、
高校三年間圭と別れなかったのも、
圭との連絡手段を手紙にしたのも、全部。
ずっと、気づかなかったのは
なにも圭だけじゃなかった。
「オカ」
「…うん」
「あたしが圭と別れた日、雪が降ってたの」
「そうだっけ」
「うん、みぞれ雪だった。
朝から降ってて、別れ話するの延期にしようかと思ったほど。
なんでかわかる?」
「…なんとなく」
きっと、思い出すからだ。
みぞれ雪が降るたび、
ヒナは圭のことを思い出す。
「まあ、結局言っちゃったんだけどね」
「いつ引っ越すの?」
「なるべく早く。
働き出す前に部屋も片付けちゃいたいし」
「ヒナ」
「うん?」
もう、これで終わりにしよう。
