圭は、よくも悪くも鈍感だった。
いいところは純粋。
悪いところは自己中。

逆にヒナはよくも悪くも鋭かった。
良いところは気が利く。
悪いところは気が付きすぎてしまう。



圭とヒナの初デートは結局3人だった。
ヒナの「二人きりになりたい」という願いは叶わなかった。

あの日、図書館から帰る途中、
「どうにもならないと思ったの」
と、ヒナは呟いた。

「圭ちゃんはオカが大好きで。
そしてそれはきっとあたしに対するものと同じくらい」

黙って聞いていた。
ヒナの寂しそうな声が、
夏の夕暮れに響いた。

このとき、きっとヒナは言葉を飲み込んだ。
『もしかしたらあたしよりオカが好きなのかも』
俺の勝手な想像だけど、
確かにヒナは飲み込んだ。

「なんも、考えてねえよ、あいつ」

「オカもそう思う?実はあたしもそう思う!」
無邪気に笑おうとするヒナが痛々しくて、
目が微かに赤くなってたのは
気づかないふりをした。


なんで圭なんだろう、と思った。
聞いてみたかったけど、聞けなかった。
俺だって、圭のいいところは知ってる。

圭のいいところを見抜いて、
圭を選んだんだ。


花火大会当日、
バックレようかとも思った。
ヒナのために。
でも、きっと圭は俺に連絡してくる。
「なんで来ないの?」
「迎えにいこうか?」
それはそれで、ヒナは寂しいんじゃないか。

5時前、圭が迎えに来た。
「楽しみだなー」

「そーだな」

「なあ、さゆ、浴衣着てると思う?」

「さあ」

「着てくれてるといいな!」

「お前ヒナのこと好きなの?」

「はっ!?当たり前じゃん!大好きだよ!」

「じゃあなんで二人で行かないの」

「え、だって恥ずかしくね?それにいきなり花火大会で二人ってなんかがっついてるっぽくない!?」

なんだ、こいつ照れてるだけか。

「俺にヒナの浴衣姿見せていいわけ?」

「うん!オカはさゆのこと好きじゃないだろ?」

なんだ、こいつ単純だな。

五時すぎ、ヒナの家についた。
ヒナは浴衣姿で玄関からでてきて、
誰だか最初わかんなかった。

俺のとなりで圭が照れてるのがわかった。
でも、俺の前ではヒナが複雑な顔をしてるのもわかった。


俺は結局、最後の最後まで、
ヒナに圭の本当の気持ちは言わなかった。

なんでかって?
そんなの本人に聞いた方がヒナのためだからだ。

でも、そんなのただの言い訳だったな。
今更気付いたよ。