「広瀬君」 私が呼ぶと、彼はゆっくりと振り向いた。 「あなたが、好きでした」 ――別れの儀式が始まる。 私の言葉を、彼はいつものように無表情で聞いていた。 「中学の入学式であなたを見かけて……ずっと、目で追いかけてた」 最初は、誰でもある憧れから。 「……ある時、捨てられた子犬を見つけたの。 家では飼えなくて、私は気づかない振りをした。 その日は雨が降ってて――」 ……記憶が、鮮明に蘇る。 .