やがて退院の日がやって来て……
山下家の家族は、女3人となった。
お年寄りと赤ちゃん、それと16になったばかりのウチ……
世間から見れば、ほんまに、か弱き固まりやったけど……
ウチらの根性は何処の家にも負けてない、と、そう思っていた。
生んで1ヶ月は安静にしとかなあかん……
って言うて、ばあちゃんは、ウチに用事を何もさせへんかった。
ばあちゃんは、家事と商売の両方で忙しい毎日やった。
忙しい……?
それが……
体は忙しかったのやけど………
店に客が………
客が、だんだんと減っていく一方で……
たこから出たウィルス菌は、テレビや新聞を賑わせ、とうとう山下家にも入り込んで来た。
毎日、店を開けても、客の姿が少なくなり、その内、全く誰も来なくなり……
たこ焼きを焼いても、焼いても、買い手は何処にもなく……
カチカチに固くなったら捨て……
また、ばあちゃんは鉄板に粉を流しこむ。
それからまた、カチカチに……
客が来た時に、フワフワのたこ焼き食べてもらいたいが為に……
何度も何度も、ばあちゃんは同じ事を繰り返した。



