撮りとめた愛の色



「いえ、見ているだけで」


彼の提案に私は間髪入れず否定を口にして首を横に振った。


「即答か」

「せんせ、私にあんなミミズが這い回ったような字を書けっていうの?あれは無理だわ」

「ミミズ……?」

「だってあんなぐにゃぐにゃした文字、まず読めすらしないもの」


私の言葉にきょとんと目を丸くした彼はやや間を空けたかと思うと何かを納得したのか、可笑しそうに吹き出した。


「大丈夫、草書ではないよ」

「草書?……何が可笑しいの」

「随分な勘違いをしてるから。草書はこないだ私が練習していた文字のことだよ。行書とは違う」

「…違うの?」

「行書はもっと楷書に近いから大丈夫、いくらか書きやすいはずさ」



くすくすと未だ可笑しそうに笑う彼にいつまで笑ってるのと拗ねたように怒れば彼は宥めるように頭を撫でた。


それについ怒る気もなくす。当然のような行動に彼は私に及ぼす影響を理解しているのだろうかと問いたくなる。

けれど、きっと彼は何ひとつ理解していないに決まっている。それが少し悔しく思いながら私は開きかけた口をつぐんでいた。