夕刻の鐘が何処からか流れてくるのを耳にしながらふと顔をあげる。日はまだ出ているけれど影は少しずつ、されど確かに伸び始めていた。
きっとそろそろ空は茜色へと変化し始めていくのだろう。
「日も大分伸びたものね。まだ明るい」
「嗚呼、そうだな。確か今年の夏至ももうすぐか」
「……そうだっけ」
「……多分な」
ハッキリと口に出したわりには確信のない返事を誤魔化すように咳をした汰人につい笑ってしまう。
「さっき話してたんだけど、汰人はお祭り浴衣着るの?」
「嗚呼、まぁ───…いや。どうだろうな」
肯定を口にする直前、私の顔を見て一瞬動きを止めた汰人は何でもないように言葉を濁した。
「汰人?」
顔を背けられた気がして私は覗き込むように汰人の名前を呼ぶけれど、視界が汰人の手によって遮られる。
「、わっ…」
それと同時に変に体がつんのめってバランスを崩せば、揺らいだ体を支えるように汰人が私の腕を掴んでいた。
「転ぶなよ」
「………。誰のせいだと」
ジト目で見上げる私に汰人は肩を竦ませ、粗雑な相槌を打つ。だから多分さっきのは気のせいだったのだろうと、それ以上考えることはなかった。
