汰人はちらと腕時計に視線を移し、もう一度私に視線を落とした。
「で?俺はそろそろ帰るけど桔梗はどうする」
「おや、今日は早いね」
「まだ課題もあるんで。少し早めに退散しとこうかと」
「成る程、忙しいものだ」
「あ。じゃあ、私もそろそろ」
二人の会話を耳に入れながら少ない荷物と一眼レフを手にする。
と、ひょいと横から伸びた手に荷物を攫われたかと思えば汰人はそのまま私を見る事なく「お邪魔しましたー」と彼に声をかけた。
「え、ちょ…っ。あ、お邪魔しました、せんせ」
「はい、また明日」
ひらひらと彼が手を振るのを横目に私は早足で汰人を追いかける。既に靴を履き終えた汰人は扉に手をかけ私を待っていた。
「汰人、荷物良いよ」
汰人は何も言わず、私が差し出した手を一瞥する。私が汰人の傍へと立ったのを確認すると汰人はそのまま踵を返し外へと歩き出した。
「あ、待っ…汰人!」
「いーから。帰るぞ」
良いって何がだ。と、口にしようとするものの、くしゃりと頭を撫でられて開きかけた口はなんの音も発せないまますぐに閉じてしまった。
「俺は今日荷物なんて財布とケータイぐらいしかねぇし。暫く貸してろ」
「なんでそんなに軽装なの…」
「必要最低限しか持ってないからな」
譲る気配のない汰人に私は息を吐き出すと、「じゃあお願いします」とすこし困ったように口にした。
