とはいえ、彼から切り出すのも珍しい事で。
「……なぁに、そんなに一人だけ和服なのが淋しいの?」
「ふふ、どうだろうか」
それでも興味を持っていたことがなんだか意外で、からかってみれば特に咎めることはなく彼は口の端をうっすら持ち上げ呟いた。それを見ながら私はおや、と目を丸くする。
「祭りは皆、同じ装いになるかもしれないね。それは中々楽しそうだ」
どうやら思いの外、彼も違った意味で祭りが楽しみであるようだ。少しズレてはいるけれど、期待するような表情が微笑ましく思えて知らずの間に口元が緩んでいた。
「そうは言っても、まだ何も決めてはいないのよね」
「?」
「ほら、着るにしても色とか帯とか」
「嗚呼、そういう事か」
女の人というのは着飾るのに頭のてっぺんからそれこそ足の先まで手を入れるものだ。
普段と異なる装いだからこそ手は抜かず全力でいつも以上に着飾る。だから気を抜けないし、やることだってたくさんだ。娯楽の意味も勿論あるけれど。
「ふむ。若いうちは何でも映えると言うから、今の内に好きな物を着ていると良い」
「それ、せんせに言われても余り説得力がないのだけれど…」
いつも和服を身に纏う彼の意見だからと素直に聞き入れるには、何を着ても似合ってしまう彼には説得力なんて欠片もなく。
「そうかい?」
「そうです」
「桔梗は色白だから、きっと浴衣が映えるだろうね。ふふ、ならば当日までに楽しみにしておこうか」
「っ、そう、かしら」
「うん、きっと綺麗だ」
いつもの会話のような何でもないように放たれた言葉に、どきりと跳ねた心臓は中々落ち着きを取り戻さなくて。俯きがちに彼から距離を置くように顔を背けた。
