撮りとめた愛の色




「ほら、この辺りは桜の木がないけど、桔梗は薄紅がよく似合うから」

「本当?初めて言われたけど、それにしても唐突ね」

「こないだサクランボをもらってね」

「…嗚呼、だから桜の木?種でも植えるの?」


子供のような発想に思わず笑えば彼はそのあたりなんか良いかもしれない、なんて指差しをする。



「サクランボの種から桜って…」

「確かできるはずだよ。立派な木ではないかもしれないけどね」

「じゃあ、お花見もここで出来るんじゃあない?」


そんなことを想像しながら顔を合わせた私達はふっと吹き出した。


「今度食べた時にでも種持ってくる?」

「おや、そんなにここにたくさん生やす気かい?それは大変だ」



そう思ってるようには見えない口調で彼は呟く。一度くらいは彼の本当に困った顔を見てみたいと思った。きっとそんなの見る機会もないとは思うけど。



「もう来週は祭りか、早いものだね。まぁ楽しんでおいで」

「…あの、本当にお邪魔してもいいの?」

「ん?嗚呼、構わないさ。行けなくて悪いね」


そんなことないけど、ちいさくそう呟いて私は首を横に振る。


「今年は夏祭りが七夕と被ったから、広場に笹を飾るって話聞いた?入口辺りで短冊を配るらしいけど」

「短冊か、桔梗は何を書くんだい?」

「ええと…とりあえず、単位が取れてますように、とか?」


私の返答に彼は「真面目なことだ」と感心したように頷いた。


「3年になって再履修とか面倒で。そろそろ就活も入ってくるし。他には何書くの?」

「私かい?そうだな、来年も健康で、とか」

「何だか年越しみたいな台詞だけど。絵馬とかにありそう」


それは少し部類が違うような気もする。


「まぁこれといって今更書くようなこともないからね。私の分も桔梗にあげようか?」

「…うーん、私も特には書くことないけど」


小さい頃は一枚じゃ足りなかったりするものなのに、不思議と成長していくにつれてそういうものにどんなことを書いたらいいのか浮かんで来なくなるものだ。