あたしは母が入って行った部屋を覗いた。

母はテーブルに顔を伏せ肩を震わせ泣いていた。

今ならわかる。
母の気持ちも。

だけど、
あの時は、父が
父だけがあたしを愛してくれる存在だと信じてたから
それを否定する母が許せなかった。

あの時、父がいなくても
母があたしを見てくれてたら
何か違ってたのかもしれない。

「ババア、こんなとこで寝るなよ」

あたしの横を少し成長した11歳のあたしが擦り抜けた。

「具合悪いのよ…」

母を見るとさっきよりさらに痩せ、顔色も悪かった。

「あっそ、じゃあ部屋で寝たら?」

子供のあたしは母の後ろにまわると、母の背中を蹴っ飛ばした。

「ゆみ!あんたってこは
なんで…」

子供のあたしは母を無視するように自分の部屋に戻っていった。

この頃になると母もみるみる弱っていって
芸者置屋も営業を止めていて、部屋には母が泣く声だけが響いていた。

壊れてく

家も

母も

あたしの心も