あれからずっと泣いているのに全然止まらない。

「もう帰っていいよ?見ていて鬱陶しいでしょ?」
「何度か泣いているところを見たが、そうは思わないな。女達に寄られるのは嫌だな」
「私も女よ?」
「あんたは俺が寄っても離れようとするだろう?くだらない女みたいに擦り寄ってこない」
「それは怖がらせるようなことをするから!」

 言い返したとき、目の下に感触があった。

「何したの?」
「涙を舐めただけだ」

 舐めた!?またこの人は舐めてきた!猫みたいに!
 やめるように頼んでいるのに、これっぽっちも聞いてくれない!

「本当にいつもそういうことをする。他の人にもしているんじゃないの?」
「だから他の女に興味はない。涙、やっと止まっただろう?」
「うん」

 もしかして、涙を止めようとしてくれた?

「あの、ありがとう」
「どういたしまして、この話はひとまずここまでにするか」
「それじゃ、おやすみ」
「まだ十時だ」
「明日、何か予定はないの?」
「子ども達に勉強を教える約束をしている」
「親に頼まれて?」
「そうだ」

 過去に本を一緒に読んだことはあるが、勉強はできなかったから偶然持っていた本を何度も読み続けていた。

「すごいね、教えることができるなんて」
「あんたは教えられる側だな?」
「そうだね、どう教えたらいいのかわからない」
「間違いとかを子どもに指摘されそうだな」

 想像して楽しいとばかりに咳き込みながら笑い出す。失礼だと思いつつ、つられて小さく笑みを零す。

「あそこの中にいたときもこんな感じによくお喋りしていたよね」
「あんな場所で心地良くなるとは思わなかった。他の奴らもお前のそういうところに惹かれているだろうな。ま、それだけじゃないだろうがな・・・・・・」
「他にも何かあるの?」
「あるけど内緒だ。俺が知っていればいい」

 頬を指で撫で、しばらく何も言葉を交わさなかったが、やがて口を開いた。

「フローラ、ずっと会いたかった」

 予想外のことなので、顔が赤く色づいた。

「何を赤くしているんだ?」
「だって変なことを言うから!」
「変?素直に言っただけだ。悪いか?」
「悪くないけど、驚かそうとしているのかと思ったの」
「そんなことを考えていないけど、やりたいことはあるな」
「やりたいこと?」
「俺がお嬢ちゃんを縛りつけたい。もう、俺から逃げることなんてできない、俺がいるからお嬢ちゃんがいるんだ」