着いた先は城の薔薇園だった。華やかな薔薇園は今は人がいなく、とても静かで同じ場所とは思いにくかった。

「それで話って何?」
「驚いたよ。いつの間にかフローラはいなくなっていて、イーディも捜し回っていた。何で城から出たの?」
「私にもう用なんてないでしょう?いつまでもここにいるつもりもなかったから出ただけなの!」
「だから許さない。ずっとここにいてもらう。今日みたいにどこかへ逃げたって、また見つけるから諦めなよ」

 何よそれ、あまりに勝手過ぎる。

「何で私にそこまで執着するの?」

 ずっと疑問に思っていた。見た目も中身も大したことないのに、どこに惹かれたのだろうって。
 私は彼に惹かれていた。羨ましく思っていた。強くて優しくてかっこいい。長い間、本当にそう思っていた。

「フローラが好きだから」

 驚いている私を見て、苦笑いを浮かべている。彼にとってこの反応は想定内だったはず。

「態度でも言葉でも示してきたつもりだけど、わかっていなかった?」
「本気じゃないくせに」
「本気。だからあんなことだってしたんだ」

 あんなひどいことを平然とやる人だなんて知らなかった。怖くなった。

「イーディのところへ行こう。今も捜しているよ」

 引っ張られたが、その場を動こうとはしなかった。突然、顎を持ち上げられて、キスをされた。
 キスしている。く、唇にキスをしている!?
 驚いて彼を強く突き飛ばした。

「何するの!?」
「何ってキスだよ。わからなかったらもう一回する?」
「しない!」
「初めてだった?」

 赤い顔で無言になったので、肯定と捉えられた。

「今はこれで我慢する」

 手を握ってきた。本当にこの人は理解できない。
 手を振り払うこともできず、納得がいかないまま、自室へ向かった。イーディの後姿が見えたので呼んだ。

「どこへ行っていたのですか?心配しましたよ!」

 どうしよう、なんて言おう。

「たまにはちょっと遠くのところへ行ってみたかったみたいであまり怒らないであげて?」

 肩を掴んでいるケヴィンの手に少しだけ力が強まった。顔を歪めそうになったが、無理矢理笑みを作った。

「イーディ・・・・・・」
「ご無事で何よりです」
「フローラ、ちょっと疲れているから休ませてあげて?」
「わかりました。それでは中に」

 イーディがドアを開け、私を先に入れて、ケヴィンが入り、イーディが入ろうとしたときにドアを閉めて鍵をした。振り向くと、ケヴィンはドアを見ながら笑みを浮かべている。イーディの焦る声を聞きながら面白がっているようだ。