「物騒なことをしないでよ」
「喧嘩って言っても、力比べのようなものだぜ?」
「そういうことにしておきましょう」
「いや、本当だって」

 数十分後、クレイグさんは料理を両手で持ちながら来た。

「二人がいるといつも店の中が賑やかになるね」
「やっと来たわ!」
「お待たせしました」
「クレイグが作るものはどれも美味しいから何度もここに来ちゃうの」
「嬉しいな。また頑張ろうって気持ちになるよ」

 クレイグさんはドアが開いたことに気づき、視線をそっちに向けた。

「いらっしゃい、あ!久しぶりだね!」
「やっと見つけた」

 後ろから抱きしめられ、振りかえるとケヴィンが立っている。

「やっ!」

 立ち上がろうとするが、強い力で動きを封じられた。

「何黙って出て行こうとしているの?許すと思う?」
「そんなの知らない!痛いよ!」
「おい、ケヴィン。その子が痛がっているだろ」

 ノアが立ち上がって、やめるように言ったが、ケヴィンは逆のことをしたまま。

「緩めたら逃げる」

 必死で抵抗をしていると、ケヴィンが舌打ちをした。

「いつまでそうしている気?帰るよ」

 抱えたまま、店を出ようとしている。

「せっかく来たんだからゆっくりしなよ。汗がすごいよ?」
「どうしてここがわかったの?」
「魔法で」
「そんな魔法を使えるの?」

 ケヴィンは肯定も否定もせず、私に質問をぶつけた。

「思ったより時間がかかったよ。いつからノア達と仲良くなったの?」
「いつでもいいでしょ、それに戻らないから」
「束縛強いな。お前」
「ノア、黙ってなよ」

 しばらく睨み合いが続いた中、先に沈黙を破ったのはケヴィンだった。

「二人で話をしよう。ここじゃ、集中できない」
「話すことなんてない」
「俺はある」
「ケヴィン、少し落ち着いて。はい」

 クレイグさんが冷たい飲み物をケヴィンの前に置いた。

「とりあえず座れ。見ていて暑苦しいぜ」

 ケヴィンは私が逃げないように、私を奥へ押してから座った。
 本当に逃げ道を塞がれちゃった。

「フローラ、ご飯は?食べたの?」
「うん、さっき食べたばかり」

 テーブルの下を一瞥した。私の手はケヴィンが握っていた。振り払っても意味がないから何もしなかった。
 グラスが空になり、私の手を引いたまま、歩き出した。

「おい、ケヴィン」
「何?この子と話をするだけ。邪魔しないでくれる?」
「あの、大丈夫だから」

 これ以上、心配かけないように笑顔を見せ、私達は店を出た。