「どうかしたの?ケヴィン」

 私の髪を少しどけて、首の辺りに指で触れた。

「この傷はどうしたの?」

 傷なんてあったかな?
 触れてみると、小さな傷ができていた。痛みがなかったため、言われるまで気づかなかった。

「わからない、どこで傷をつけたのかな?」

 おそらく街道。魔獣を倒している間につけたのだろう。
 水音が耳元で聞こえた。首筋が何かで濡れている。

「フローラ!」

 イーディが叫んでいる。
 けれどケヴィンは傷を舐め続けていた。

「や、やめて!」
「だめだよ。どこでこんなものを作ったのかは知らないけど、手当てをしなきゃ」

 こんな傷、何もしなくてもすぐに治るのに。
 動物のように舐められ、耐えることに限界を感じていた。

「今どんな表情をしているかわかる?イーディに見てもらおう」

 顎を持ち、イーディへ向けようとした。

「嫌!」

 イーディにこんな顔を見られたくないし、見るのが怖かった。
 ケヴィンの肩に顔を埋めて小さく震えていた。

「可愛い」

 くすくすと楽しそうに笑いながら髪にキスをしたり、撫でたり、きつく抱きしめてきた。
 それでも羞恥心が強く、抵抗なんて一切できなかった。
 耳に息がかかり、顔を上げようとしたら、イーディが怒鳴った。

「やりすぎよ!いい加減にしなさい!」
「うるさいな。せっかく楽しんでいたのに・・・・・・」
「それ以上すると本気で追い出すわよ」
「もっとやりたかった」

 私は息を荒くしながら、ケヴィンにもたれかかっている。

「他の男には見せられないな」

 顔を覗きこもうとしてきたので、視線を逸らした。

「フローラを見ていると、そそられるから困るな」
「おかしなものでも食べた?」
「食べていない。久々にフローラに会えたから嬉しくて」

 そう言ってくれると嬉しくなる。ケヴィンにずっと会いたかったから。

「ケヴィンは・・・・・・」
「ん?」
「ごめん、何でもない。忘れて」
「何それ?気になるじゃん」
「いいの」
「やれやれ。いつか言ってね?」
「気が向いたらね」

 ケヴィンはどうしてこんなに私と一緒にいたがるの?
 どうして好きだって言ってくれるの?
 私の何に惹かれたの?
 傍にいるのにわからないことだらけのままだった。