「カレン?呼び捨てにしているの?」

 ケヴィンは驚きを隠せないとばかりの声で発した。

「そうするように言われたの」
「ケヴィン、またあなたにとって、厄介なことが増えたわよ」

 ケヴィンは口をひくつかせた。

「想像と違っているといいな」
「姫様がフローラのことを気に入ったわ」

 イーディが口元を歪めて言い放った。

「嘘だよね?」
「残念、本当の話よ」
「何なの?次から次へと」

 ケヴィンはベッドにダイブした。布団の上でゴロゴロと寝転がるから乱れてしまう。
 そう思っていると、掛け布団がベッドの下へ落とされた。

「やっぱり」

 私に向かって両手を広げている。

「悪いことをしたから罰を与えてあげる」

 罰という言葉に過剰反応をしてしまった。

「そんなことしていない!」
「どっちでもいいよ。それでどんな罰がいい?」
「何があるの?」
「それを教えたらつまらないな。一番から五番、好きなのを選んでいいよ」
「だから何も悪さなんてしていない」
「じゃあ全部やってあげる。一日では終わらないから数日かけて」

 全力で拒否をします。危険な感じがする上にケヴィンの笑顔が不気味になっている。
 
「来ないで」

 ベッドから私のところまで移動しようとしている。

「さっきまであんなに仲良くしていたのに」
「怖い顔をしているよ」
「普通だよ」

 それのどこが普通なの!?
 ケヴィンが獲物を捕らえようとしている猛獣みたいに見える。
 その顔で普通って言われたら、普段の顔は何なの!?
 まだ私に近づこうとしている。

「束縛が強い男は嫌われるわよ?」
「だってフローラ、俺の気持ちを知っているくせに男も女も関係なく、好かれるから」
「女の子って、私のことを言っているの?」

 何も返事をしないので肯定だ。

「女の子に嫉妬するなんて・・・・・・」
「正確にはおばさんだよ」
「な!?」
「聞こえなかった?もう一度・・・・・・」
「言ったらすぐにここから追い出すわ!」

 力強く抱きしめられ、そのまま黙り込んでしまった。私も何も言わず、ケヴィンの背中をぽんぽんと優しく叩いた。
 しばらくそうしていると、ゆっくりとケヴィンが顔を上げた。

「フローラ、できることなら俺はもっと早く会いたかった」

 名前を呼ぼうと顔を見ると、いつも通りの表情に戻っていた。
 抱きしめる瞬間に見えたケヴィンの苦しそうな表情が頭から消えなかった。