唇を噛みしめて、拳を作りながら震えている。
 ケヴィンがベッドからイーディの前まで移動した。顎を持ち上げたあと、バチンと強い音が鳴り、イーディが叫んだ。

「何するのよ!?」
「デコピン。わからなかったらもう一度・・・・・・」

 さらに前に進むと、後ろに下がっていたイーディが横へ移動した。

「いらないわよ!」
「だったらくだらないことで悩まないでくれる?」
「何よ?その言い方」
「だって自分だって人を助けていたのに、まるで何の力もないみたいに・・・・・・」
「そうでしょ?私は事実を言っただけ・・・・・・」
「魔法や剣術が力の全てじゃないでしょ?それをわかっているくせにどうしてそんなことを言うのか理解できない」

 イーディはそれ以上は何も言葉を発しなかった。ケヴィンの言いたいことを理解したようだ。
 コンコンとノック音が響き、イーディがドアを開けると、メイドさんと小さな女の子がいた。

「どうしましたか?」
「イーディお姉ちゃんに言いたいことがあるの」

 イーディは女の子と顔を合わせるように背を屈めた。

「何でしょうか?」
「怪我の手当てをしてくれてありがとう。それといっぱい泣いてごめんね」

 驚いているイーディにメイドさんが口を開いた。

「ずっとこの子が外の騒ぎでパニックになっていたでしょう?他の人達は困り果てていたけど、あなたはずっとこの子を宥めていたから」

 泣きそうになって顔を歪めたが、イーディは何とか涙を堪えて、笑顔を作った。

「わざわざありがとうございます。あなたが笑顔になって、とても嬉しく思います」

 メイドさんと手を繋ぎながら、部屋を出て行った。

「だから言ったでしょ?ちゃんとあの子の力になれたじゃない?」
「えぇ・・・・・・」

 イーディは今も涙を我慢している。

「イーディ、ここには私達だけだから泣いていいよ?もし、見られたくないなら目を閉じるから」

 その瞬間、私に抱きつき、涙を零した。何も言わず、ずっと頭を撫で続けた。
 しばらくしてからイーディは顔を上げた。

「あーあ、かなり目が腫れているよ?」
「放っておいて」
「少しはすっきりした?」

 イーディは涙を拭いながら頷いた。

「ありがと・・・・・・」
「久々に見たよ、イーディの泣く姿」

 初めて綺麗な涙を流しているところを見た。

「いつ以来かしら?目が見えなくなってから?」
「それくらいだと思うよ」
「泣いたらお腹が空いたわ」
「食べておいでよ。あとは大丈夫」
「駄目よ!ちゃんと世話をして・・・・・・」

 あの、さっきからリズミカルにお腹が鳴っているよ?