スラムの廃墟で一夜を過ごし、早朝まだ薄暗い時刻に、ラサは黎明を連れ城へと向かった。
高価な衣装は目立つので、黎明はラサが腰に巻いていた薄布を羽織っている。
その道々、王宮の衛兵らしい男達が険しい顔で彷徨いていたが、二人をが呼び止められることはなかった。

王宮の近くまでくると、空はすっかり明るくなっていた。
門の前は物々しい雰囲気で、衛兵達の中に見慣れない衣が混じっているのが見える。

(黎明の国の人かしら……)

そう思った瞬間、隣にいた黎明が弾かれたように駆け出した。

『藍深(ランシン)』

その声に、一人の青年が振り返る。

『黎明……様』

飛び込んで来た黎明を、青年は両腕でしっかりと抱き止めた。