「私ニハ心ニ思ウ人ガイマシタ。叶ワナイ恋ダト思ッテイタカラ告ゲラレナカッタケレド……側デ見テイラレタラヨカッタ……ダケド……」

そこまで言うと、黎明は声を上げて泣き出した。

「側でってことは、王宮にいる人だったの?」

「私ノ乳母ノ子デ、子供ノ頃カラ兄妹ノヨウニ育チマシタ」

「その人は国に?」

「イイエ、従者ノ一人トシテファティマニ来テイマス」

(ああ……)

ラサは心の中で呻いた。
多分黎明にとっては初恋なのだろう。
その相手前で望まぬ結婚をするのは、流石に辛い。
恋愛の経験などさしてないラサでも、その気持ちは想像できた。

「気持ちは分かるけど、だからってこのまま逃げ続けても、解決にはならないんじゃない?」

「…………」

長い睫毛を伏せ、黎明は膝の上に乗せた両手をギュと握る。

「貴女が本当にその人のこと好きなら、気持ちを告げてみたら? 何も伝えないまま知らない男に嫁ぐより、いいと思うよ」

飾り気のない言葉だからこそ、それは黎明の心に響いた。

「アリガトウ……」

長い沈黙の後、黎明はそう言ってラサを見た。

「貴女ノ名前ヲ教エテ頂ケマスカ?」

「ラサだよ」

「私城ニ戻リマス、ラサ」

「うん、じゃあ送って行くよ」

ラサは右手の指輪を翳(かざ)しながら、片目を瞑った。