「それで、貴女は何処から来たの?どうして追われてたの?」

少女は涙をぬぐい、姿勢を正すと、ラサに向かい合った。

「突然ノ御無礼、オ許シクダサイ。私ハ華(ファン)ノ皇女黎明(レイメイ)ト申シマス」

「え……」

ラサは固まった。
華と言えば、ファティマの東にある大国である。

「私ハ……第一皇子ニ嫁グタメニ、ファティマニ来マシタ……」

「えっ……じゃあ、貴女を追っかけてた人達って……」

「私ノ従者ト、城の衛兵タチデス……」

ラサは真っ青になった。

(じゃあ、私は皇子の花嫁を連れて逃げちゃったってこと……? だけど……)

「何で逃げてるの? お城に行けば皆に傅(かしず)かれて、不自由なく暮らせるのに」

ラサがそう言えば、黎明はキュッと唇を噛む。

「私ハ……望ンデココニ来タノデハアリマセン」

そう言うと、裾を払って立ち上がる。

「ゴ面倒ヲオカケシマシタ」

「ちょっ、何処に行くつもりっ!?」

ラサは建物から路地に降りようとする黎明の腕を慌てて掴んだ。

「貴女ニゴ迷惑ハオカケシマセン」

「そんな格好で路地に降りたら、あって間に身ぐるみ剥がれて、どっかに売り飛ばされるわよ?」

脅すように言えば、黎明はビクリとして足を止めた。

「何でこんな場所に逃げ込んだか知らないけど、本当に世間知らずのお姫様ね」

呆れたような口調に、黎明はむっとした顔になる。

「世間知ラズジャアリマセン」

「はいはい。それで、これからどうするつもりなの? 城に行くなら、送ってってあげてもいいわよ、勿論お礼は貰うけど」

「城ニハ行キマセン」

「城に行かないって……まさか国に帰るつもり?」

黎明は首を振る。
それから右手に嵌めた指輪を外し、ラサに差し出した。

「オ礼デス」

掌にポンと置かれた指輪は、一目で高価な物だと知れた。

(これを売ったら、暫くは食べるのに困らずにすむけど……)

小さな友人達の顔が浮かぶ。
指輪を握ってさっさと行ってしまえばいい。そう思いながら、ラサは結局立ち去ることが出来なかった。
大きく息を吐き、黎明を振り返る。

「ねぇ、よかったら話聴かせてよ」