「美味しかったわ、ご馳走様」

「ドウイタシマシテ」

デザートの杏の蜂蜜漬けまで完食し、ラサはスプーンを置いた。
こんなに食べたのは本当に久しぶりだ。

開け放たれた扉の外に目をやる。
日は中天に届く頃だろうか。

「そろそろ、行くわ」

ラサは席を立ち、黎明を振り返った。

「モウ?マダ早イワ」

「ごめんね、帰りを待ってる子達がいるの」

「……家族?」

「まあ……そうかな」

微妙な言い回しに、黎明は首を傾げる。

「マタ……会エル?」

その問いに、ラサは曖昧に微笑むしかない。


『黎明様』

『藍深……』

計ったようなタイミングで、藍深が入ってきた。

『王宮から使いが来ています』

『王宮から?』

華の言葉で話す二人の会話は聞き取れないが、その表情には戸惑いが浮かんでいた。

「何かあったの?」

「王宮カラ使イガ……第一皇子ノ宮ニ来テホシイト」

ラサの問いに、黎明は泣きそうな顔で答えた。
婚姻の儀式まではまだ時間がかかると言っていた。
勿論、花嫁になる相手に会うのに理由などいらないのだろうが。

「第一皇子と会ったことは?」

黎明は首を振る。

「……そんなに不安そうな顔しなくても、ただの顔合わせか挨拶よ」

ラサは努めて明るく言った。
黎明はうつ向いたまま黙り込み、ラサの服の袖をキュッと掴む。
小さな手……見下ろす肩は、ラサよりもずっと細く、華奢だった。

「黎明……」

「誰カト一緒ニ食ベル食事ナンテ、久シブリダカラ、楽シカッタ」

そう言って、黎明は懸命に笑みを作りながら、「さよなら」と告げた。