『綺麗だよね?』

家の近くにあった河川敷。

私はここで星を眺めるのが好きで、毎晩足を運んでいた。

お母さんと一緒に見上げていた星空。

お母さんが亡くなってから、たった1人で眺めていた。

ある日の夜、星空に見入っていた私に誰かが声をかけてきた。

『あ、うん』

たぶん、小3くらいだと思う。

声がした方を向くと、1人の男の子が立っていた。

『俺いつもここでサッカーやってる、分かる?君毎日いるから』

サッカーやってる子……

確かに、ほぼ毎日暗くなるまでいる。

途中で友達が帰っても、1人でボールを追いかけ続けて。

『初めまして。君、名前は?』

相手も小3くらいのはずだけど、口調がはっきりしている。

『村本、千尋です』

『俺、――――――って言うんだ。また一緒に星見ようぜ!』

それから毎日現れた彼。

いつも話かけてきて、とても明るい。

私にしてみれば大陽みたいな存在。

いつの間にか、この夕方の時間が1日の中で1番の楽しみになっていた。

でも、一緒に星を見るのは小4になるころ、急に終わった。

その彼が現れなくなったからだ。

それからはまた1人で眺めていた。

毎日、毎日、かかさず河川敷に行った。

長い時は1時間くらい座っていた。

でも、現れなかった。

最初は来なくなったことに違和感を覚えたが、結局はどうでもよくなった。

所詮、私といるのに疲れたのだろう。

この考えで、頭の中から彼を消した。

「んっ……ヤバいな」

目が覚めた。

時計を見ると、午後6時50分。

もう部活を終えて帰っているころだろう。

久しぶりにこの夢を見た。

何年ぶりだろうな。

夢の中でも、やっぱり星空は綺麗だった。

この世の何よりも、美しいと感じた。

あの彼は……

思いだそうと頭を押さえた瞬間、脳内をよぎった言葉。

『千尋が1人なら、俺が支えてやるよ』

『サッカー、じいちゃんが教えてくれたんだ』

『ボール追いかけたら、嫌なこととか全部消えるから』

『俺さ、病気なんだ。少し体弱いけど、だからって遠慮はしたくねぇ』

『俺、――――――』

「……ゆうき」

分かった、彼の名前。

今はっきりと思いだした。

中学校での出会いは初対面ではなかった。

すでにあの時から、運命は始まっていた。

あんたは覚えてた?私のこと。

忘れててごめんね。

恨んでごめんね。

やっと思いだした。

心の中でずっと会いたいと思っていた人。

「祐樹っ!」

教室のドアを開けた。

全てが解き放たれたように感じた。

私は、無我夢中で走り続けた。

私の大好きな人、祐樹のところへ。