「……あぁ」

祐樹はそれだけ言って、強引に受け取った。

誰が見ても祐樹は海咲ちゃんが嫌いだろうと予想がつく。

私が渡したかったな……

って、何考えてるんだろう。

「ちーちゃん!これ!」

梨奈に呼ばれ後ろを向いた瞬間、何かが飛んできた。

「渡してきな」

ウインクをして親指を立てている。

梨奈ぁ……私の気持ち分かってくれたんだ。

その気持ちを受け取って、祐樹の近くに行く。

「お疲れ様。これ、ドリンク」

そう言って、ドリンクを差し出す。

祐樹は目も合わせてくれなかった。

「ありがと」

ただそう言われた。

……なんかショック。

部活中にこんなことするなってこと?

嫌な気持ちにさせたかな。

でも、ただドリンク渡しただけだし……

あんな態度とらなくてもよかったじゃん。

「千尋。お前もお疲れだな」

聞きなれた声の聞きなれない呼び方。

「いつから私のこと、呼び捨てしてましたっけ。綾太先輩」

「今日から、かな?」

簡単にではあるが、何故呼び捨てにしているのか教えてくれた。

「瑞季がヤキモチ妬いててさぁ。『ちーちゃんのこと特別扱いしないで?』って」

上目づかいでって付け足した。

瑞季先輩……綾太先輩にベタ惚れじゃん。

ま、綾太先輩もだけど。

「前の先輩は、私のこと好きそうにしてましたよね」

「俺、恋愛とかしたことなかったから。恋愛感情が分からなかったわけ」

なるほど、いかにもそういう感じがする。

「綾太!練習時間少なくなるぞ!」

「やべっ。じゃあな!」

瑞季先輩のことをずっと話し続けそうな綾太先輩に、修也兄ちゃんが叫ぶ。

慌てて走って行った。

すっごくラブラブじゃんか、このカップル。

話についていけないよ。