私はなんてバカだろう。

こんな簡単な言葉、伝えればこんなにもスッキリしたのに。

「俺もちぃが好きだよ」

少しずつ、祐樹の顔が近付いてくる。

私はゆっくり目を閉じる。

ガラッ!

「祐樹君っ!いる?」

なんてタイミングが悪い。

よりにもよって……海咲ちゃんが入ってくるなんて。

「……祐樹君、ちーちゃん?」

祐樹はとっさに私から離れた。

「2人とも何してたのー?私、空気読めてなかった?」

ニコニコしながら聞いてるけど、私を睨んでいる。

深いため息をついた祐樹が海咲ちゃんに聞く。

「俺になんか用?」

「全然戻ってこないから、呼んできてって頼まれたの」

……何で。

海咲ちゃん今朝、私に向かって一緒に行こうって言ったよね。

なのに先に行ってたの?

「ね、皆待ってるよ?」

そう言うと、祐樹の隣に来て腕をからませる。

強引にでも連れて行こうとしてるみたい。

「離せよ」

祐樹はそう呟いた。

「だから、皆待ってる……」

「離せって言ってんの。俺はちぃと話があるんだよ」

冷たい目で海咲ちゃんを睨む。

「じゃ、待ってるね。早く終わらせてね」

パッと手を離すと、そう言い残して廊下に出て行った。

祐樹はまた溜息をついている。

「待ってもらおうなんて思ってねぇからな」

そうは言われても、さっきの光景を見たら苦しいよ。

私は小さくうなずくだけ。

「大丈夫だって」

私が祐樹の顔を見ようと、少し上を向いたとき。

私の唇に何かがぶつかった。

目の前には祐樹の顔。

10秒くらい、ずっとくっついたまま。

苦しいけど、何故か安心した。

祐樹は本当に、私のことを好きでいてくれてるんだって。

「ちぃ……」

私は恥ずかしくてうつむいた。

そしてもう一度、私を強く抱きしめた。

私は祐樹の肩に顔をうずめていた。

その頭をポンポンと優しくなでてくれる。

こんなことされたの久しぶりに感じて、泣きそうになる。

祐樹の優しさは全然変わってないね。

私が祐樹を好きになった一番の理由はこういうところなんだよね。