最初は震えていた祐樹も、時間がたつにつれ落ち着いてきた。

「もう大丈夫?」

そう聞くと、ゆっくり頷いた。

「ごめんな。こんな夜遅くに呼び出して」

「いいよ。祐樹が落ち着いたならそれで」

今日の風は冷たい。

体に風が吹き付けるたびに震えてしまいそう。

下を向き、自分で腕をさする。

もう少し厚着をしてくればよかった……と思った。

「寒い?」

「少しだけ」

気を使ってくれた祐樹がそう聞くと、私に自分が来ていた上着をかけてくれた。

ありがとう、と言うとほほ笑んでくれた。

やっぱり安心するよ、祐樹の笑顔は。

「少し、話聞いてくれない?」

「いいよ」

それからベンチに移動して、祐樹の話を聞いた。

それは、衝撃的なこと。

「俺さ……妹も亡くしたんだ」

驚きで言葉が出ない。

「千尋って名前の妹。ちぃと会った頃にはもういなかった」

初めて祐樹と出会ったのは、中学1年生の時。

あの時にはもう、大切な妹がいなかったんだ。

「ちぃのこと千尋って呼んだら、妹思いだして泣きそうになるから、呼び方を変えたんだ」

千尋ちゃんが亡くなったのはその日の夕方くらい。

学校が終わって帰っているときに、事故にあったらしい。

「その日の朝、千尋と少し喧嘩したんだ。すぐに仲直りはしたけど、千尋はふてくされてた。そんな日に事故で亡くなった。後悔しか残らなかった」

どうして今この話をするのか分からない。

でも、聞いてあげようと思った。

さっき泣きやんだばかりなのに、目には涙がたまっている。

私がいるから、我慢してるんだろうと思う。

「千尋がいなくなって、本当に悲しくて……でもまた、大切な存在を亡くした」

声が震えている。

我慢しなくてもいいよって声をかけたいけど、私も泣きそうで声が出ない。

私がお母さんを亡くしたように、祐樹も大切な存在を亡くしてたんだね。

その祐樹の悲しみを分かってあげられなかった自分に腹が立つ。

「もう、後悔したくないんだよ……」

言い終えると同時に、私は抱きしめられた。

さっきよりも強く、でも優しく。

「俺、ちぃが好きなんだ。こんなに好きだと思えたのは初めてだ」

……もう、動けなかった。

心の中では喜んでいた、颯人がいるにも関わらず。

でも、全然嬉しくなかった。

こんなにも大切な人から告白されたのに、涙があふれて何も言えないなんて。

「私、はや_____」

「颯人が……颯人がいるってことは知ってる。でも知っててほしいんだ。俺の気持ち」

そう言うと、離してくれた。

「言っただろ?後悔したくないって」

……どういう意味?

そんな言い方されたら、自分はもういなくなるって言ってるような感じじゃん。

「どういうこと?」

気持ちを抑えきれなくて、聞いてしまった。

「言った通り。後悔したくないんだって」

こう言い残すと、祐樹は立ち上がり歩いていこうとした。

「ダメ……」

このまま帰ったら、祐樹が本当に消えそうで。

私は勢いで、祐樹の服をつかんだ。

「説明してよ……何でなにも言ってくれないの?」

その手すらも、強引に離された。

「今日はありがとう。おかげでスッキリした。送れなくてごめん」

祐樹はそのまま走って公園を出た。

……後ろを振り向くことはなかった。